肖像画の額縁について
老舗額縁メーカー・株式会社 古径に2年間在籍。肖像ドットコム開設後、引き続き古径・岩松社長の薫陶を受け、古径の額を愛用しておりました。
2018年古径銀座店閉店後も、より良い額縁をご紹介できる様、10社ほどの製造者から直接話を伺い、独自の仕様を定めました。
以下に額縁の種類を8つの項目別に分類し、当サイトが肖像画にお付けする額縁の仕様を公開します。
額縁の種類と仕様 目次
額縁の種類と仕様
【1】用途別
大雑把に、薄手の作品を入れる額と、厚みのあるものや立体的な作品を入れる額の2種類に分かれ、賞状額、和額、写真額、叙勲額、仮縁、ボックス額など様々な額が用意されていますが、ここでは肖像画に用いられる額縁のみ取り上げます。
(A)デッサン縁…薄手の紙作品(パステル画・水彩画・写真・版画・水墨画・書)に適した額です。
賞状額などでは紙とガラスが接触しますが、デッサン縁では作品とガラスの間に厚さ3ミリほどのマットが入り、作品はマットに固定されます。このマットによって絵と額の間にゆったりとした空間ができて、絵に広がりをもたらします。
(B)油縁…木枠に張り込まれたキャンバスやパネルを飾るための額縁です。厚み25mm程度までの油絵や日本画作品を収めることができます。
額の内側にセットされた入れ子(インナー)がデッサン縁のマットの役割を果たし優雅さを添えてくれます。また入れ子という余白のスペースを入れずに、絵を額本体と直接対峙させる飾り方もヨーロッパでは多く見られます。
肖像ドットコムでは、デッサン縁のマットに作品を止める際、作品を傷めるテープによる直接固定法を廃除し、中性紙の厚紙で押さえて止める間接固定法を取っています。
油縁にテンペラ画をセットする際は、額縁の入れ子のかかり部に直接触れてテンペラ画面に傷を付けることのない様、入れ子にクッション材を装着しています。
【2】製造方法別
(A)組縁(モールディング額)…あらかじめ加工され塗装仕上まで完成した棹(さお)材を、4本に切り、枠状に組んだ簡易額縁のことをいいます。
(B)本縁…あらかじめ加工された白木の棹材を4本に切って枠状に組んだ後に、彫刻したりレリーフを接着したり、そのままの木地を生かしたりしてその上で仕上を施した本格的な額縁。手間がかかるため高級とされます。
モールディング額は四隅に切り口が露出し、模様もつながっていませんが、本縁はこれとは異なる丁寧な仕上がりとなっています。肖像ドットコムでは、モールディング額を一切廃除し、本縁のみを取り扱っています。
【3】素材別
(A)木材…古くから用いられ強度もあり大型の額縁にも適しています。建築・家具用木材の中で、軟らかく細かい彫刻がしやすいものが選ばれます。
(ア)国産材…貴重なサクラ、クワ、タモ等高級木材を長期間乾燥させて用いる老舗工房も存在します。他にホオ、ナラ、スギ、シナ等も使われています。スギは針葉樹でそれ以外は広葉樹です。
(イ)北米材…針葉樹のベイスギ、ベイマツ等が代表的です。ベイスギは国産材のスギとは異なりヒノキ科で、腐りにくく耐水性が高い材料です。
(ウ)南洋材…広葉樹のジェルトン、チーク、ラワン、針葉樹のアガチス等。南洋材は成長が早く豊富に供給されますが、広葉樹にはヒラタキクイムシなどが潜んでいることがあります。
ジェルトンは軟らかく彫刻に適しているため広く用いられており、虫害を防ぐために産地国で防虫加工・化学処理されたものが輸入されます。具体的にはホウ酸塩による漬け込みと加圧処理が施されており、素手で長時間作業するとかぶれることがあります。
(エ)集成材、合板(ベニヤ)…スギ、ジェルトン、ラワン等の木材小片や薄板を合成樹脂接着剤で圧着させて作ります。集成材は枠材の他に、入れ子(内枠)やドロ足(枠裏の厚みを増す材)用に、ラワン合板は裏板や入れ子に用いられます。
(B)MDF材…中密度繊維板(Medium Density Fiberboard)のことです。粉末状の木材繊維を合成樹脂接着剤で固め、圧着して作ります。半プラスチック製品ですので価格も抑えられ、虫害もありませんが、耐水性は劣ります。また強度が弱いため大型の額縁には工夫が必要です。裏板としても用いられます。
(C)樹脂材…合成樹脂(プラスチック)製。型に流し込み、複雑な立体模様を作ります。そのまま額縁となる場合も、型取りした立体模様を木材に貼り付ける場合もあります。樹脂単体では強度が弱いため大型の額縁には向きません。
(D)金属材…アルミ製品がほとんどで、ステンレス製は稀少であるといえます。軽く強度に優れるため大型の額縁には向いていますが、機械加工しかできず修理は効きません。重厚感がなく、時代を経た古色美も生じません。また冷たいイメージがあって高級感に乏しいことが欠点です。
量産メーカーの主流はジェルトン、樹脂材、アルミ材、MDF材です。
肖像ドットコムではアルミ製品を扱っておりません。枠材としては国産天然無垢材を最上と考えていますが大変高価格となる場合があり別注文とさせていただいております。
米スギ、米マツ、ジェルトン、次に樹脂材及びMDF材の順で評価しています。天然無垢材のうちでは、ナラ、タモなどの木地を生かしたシンプルな額縁を標準仕様品として扱っています。
【4】仕上げ別
(A)箔押し仕上げ…箔を貼りクリアー・コートしたもの、もしくはその上に塗装を施し、意図的に時代を経たような渋みを加えて古美(ふるび)仕上げとしたものがあります。金・銀、ゴールド・シルバーと表記されますが、通常は洋金箔(真鍮箔)やアルミ箔などの代用箔が使われています。
純金箔、純銀箔を用いた額縁には本金、本銀と表記され、大変に高価なものです。
(ア)湿式…ヨーロッパの伝統的な箔押し法で、石膏で型取りした立体模様を木地に接着し研ぎ出した上で、膠で溶いた箔下砥の粉を塗布・研磨し、水引きして箔を押します。
これをメノウ棒で磨いて光沢を出しますが大変に手間がかかるために、湿式を採用している工房は限られます。
(イ)乾式…型取りした合成樹脂の立体模様を木地に接着し、箔下用樹脂塗料を噴霧して箔押しをします。
下地が軟らかく磨くことはできませんので手間も最小限となり、量産工場でも工房でもこの方式が一般的です。
(B)塗装仕上げ…木材やプラスチック用の合成樹脂塗料としてはニトロセルロースラッカー塗料、アクリル樹脂塗料、不飽和ポリエステル樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料があります。
自然塗料としては亜麻仁油、桐油が用いられます。穴埋め用のパテにはエポキシ樹脂が用いられます。これらが単独あるいは組み合わされて、下塗りと上塗りが数工程ずつ施されます。
(ア)透明仕上げ…木材に対して、木目をそのまま生かすために用います。木地の上に直接ニスを塗って塗膜を作る仕上げと、ステインと呼ばれる透明な着色剤を塗った上にニスで塗膜を作る仕上げがあります。また箔押し仕上げを保護・コーティングするためにも用いられます。
(イ)不透明仕上げ…顔料に展色剤(糊)を加えた着色塗料(エナメルまたはペイントと呼ばれる)で、塗膜を形成して不透明な仕上がりになります。市販されている額縁については、その塗料の種類や製品名、組み合わせは企業秘密として一般に公開されていません。
肖像画用には金色の額縁が良く好まれます。箔押し仕上げは乾式が一般的なためこれに準じています。湿式及び本金、本銀を使用した額縁は特注にて承っております。塗装仕上げの原材料についてはメーカーが公開していないため、特に仕様は定めておりませんが、伝統的なシックな色合いのものをお勧めしております。
旧古径の額縁の様に、入れ子の刃先部分を本金仕上げとすることは、デザイン(メーカー)が限られてきますが、標準仕様として可能ですのでお申し出ください。
【5】表面保護材
(A)透明ガラス…国内では明治以来用いられています。傷はつきにくいですが、アクリルより重いこと、また衝撃により割れる危険性があります。
(B)透明アクリル板…ガラスより軽くまた割れにくいため、万が一衝撃が加わったとしても絵画本体を傷つける可能性が低いです。ガラスより表面に若干傷がつきやすく、価格は高めです。
肖像ドットコムにおいて、小品については透明ガラスを採用して来ましたが、割れる危険性をなくすため、2013年よりすべて透明アクリル板に仕様変更しております。
【6】金物類
(A)吊り金具…吊り紐を付けて壁のフックに吊り下げるために、額縁の裏に左右1個ずつビス止めされています。額縁メーカーによっては縦掛けも横掛けもできるように、通常は長辺方向に2個、短辺方向にも2個ずつ固定されているケースもあります。
(B)トンボ…裏板を額縁に固定するためのものでビス止めされています。
(C)ビス…吊り金具やトンボ、ときには裏板を直接額縁に固定するのに用いられます。
これらの金具は誰でも取り付け・取り外しできるため、多くのメーカーにおいて消耗品と考えられており、ほとんどが安価な鉄製です。従って10年経たないうちに錆が生じます。
肖像ドットコムでは、吊り金具、トンボ、ビスを錆びにくいステンレス製に順次交換しておりますが、メーカーによっては、吊り金具が防錆処理した鉄製品の場合があります。
【7】梱包材
(A)ダンボール製のかぶせ箱+ビニル袋…量産品の額縁はこの組み合わせが多く見られます。
(B)ダンボール製差し箱+黄袋…使い勝手の良い仕様です。高級品に用いられます。
(C)厚紙製布貼りタトウ箱+黄袋…使い勝手が良いだけでなく、贈り物にも最適な仕様です。高級品に用いられます。
(D)ベニヤ製タトウ箱+黄袋…(C)の厚紙を頑丈なベニヤにした仕様で、大型の額縁に用いられます。重くなるのが難点です。
低価格な箱から(A)→(B)→(C)→(D)の順で、(D)が最も高級な仕様となります。
絵を壁から外し移動したり、しばらく保存する場合に袋をかぶせて箱に収納します。このとき額縁は平置きせずに縦置きするのが安全です。平置きしますとつい他のものを上に重ねてしまい、額縁に負荷をかけることになります。
この縦置きする際にかぶせ箱ですとフタが開いてしまう不都合が生じます。またビニル袋も薄手のため緩衝材としては黄袋に劣ります。
これらの理由により、(A)のダンボール製かぶせ箱+ビニル袋という仕様を廃除いたしました。
肖像ドットコムでは
(B)デッサン縁(水墨画用額縁)用…ダンボール製差し箱+黄袋
(C)油縁(油絵・テンペラ画用額縁)用…厚紙製布貼りタトウ箱+黄袋
(D)このうちサイズが大きく重い額縁用…ベニヤ製布貼りタトウ箱+黄袋
を標準仕様としております。(※複数のメーカー製品を採用していますので、メーカーによっては、ベニヤ製布貼りタトウ箱が、小品やデッサン縁用に付属するケースもございます。)
【8】価格帯別
デッサン縁も油縁も、素材やデザイン、仕上げにかかる手間の差によって価格が上下します。また大型額縁ほど高価格になります。ここでは額縁店にサンプルとして飾られている4号サイズの価格を基準とします。また本体だけでなくマットや梱包材の価格も含みます。
(A)数千円~1万円前後の普及品…国内外の量産工場で作られます。モールディング額でなく、単に本縁であるという理由で高級品と呼ばれる場合もあります。
(B)1万5千円~4万円前後の高級品…量産工場でも単品生産の工房でも製造されます。落ち着いたデザインと丁寧な造りで、高級感があります。
(C)6万円~20万円の最高級品…既製品であっても在庫しないのが普通で、特注による一品製作となります。高級素材が用いられ、使用される箔も本金、本銀になります。デザイン、仕上げの精度も伝統工芸品を思わせるレベルです。
肖像ドットコムでは、4号サイズの肖像画に無料でお付けする額縁と梱包材を併せた価格につきまして、
- 水墨画用のデッサン縁は1万5千円~2万円
- 油絵用の額縁は2万円~4万円
- テンペラ画用の額縁は4万円~8万円
の製品をご用意しております。
(額縁価格は肖像画のお値段に含まれていますので、別途ご請求することはありません。)
旧古径が扱っておりました額縁は、技術の粋を集めた製品だったために現在でも人気が高く、ネットオークションに出品されているのをよく見かけます。
ご依頼いただく肖像画には旧古径額に準じた、信頼のおける優れた額縁をお付けしてお届けします。